〜2026年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料〜
はじめに
今回の記事では、大林組(証券コード1802)が公開している2026年3月期(2025年度)決算説明会プレゼンテーション資料をもとに、同社の事業内容、業績動向、成長戦略、そして投資家が注目すべきポイントを整理します。2025年度は売上高がほぼ横ばいのなか、国内建築事業の採算改善を主因に営業利益が前期比522億円増(+36.6%)の1,946億円となり、ROE14.4%・ROIC8.4%と中期経営計画2022(追補)の経営指標目標をすべて上回りました。
※本記事は公開IR資料をもとに作成したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
1. 会社概要
大林組は「MAKE BEYOND つくるを拓く」を掲げる大手総合建設会社(スーパーゼネコン)です。2025年度の連結事業別構成比は以下のとおりで、国内建設事業が収益の柱でありながら、海外比率の高さが特徴です。
- 国内建設事業:売上高構成比60.5%(国内建築44.0%・国内土木16.5%)、営業利益構成比74.5%
- 海外建設事業:売上高構成比32.7%(8,439億円)、営業利益構成比13.7%。北米では半導体・データセンター分野に強いGCON社(2025年度買収)、水処理施設を手掛けるMWH社(2023年度連結子会社化)を傘下に持ちます
- 不動産事業:売上高構成比4.1%ながら営業利益率18.7%と高採算で、営業利益構成比は10.3%
2025年度の主な受注工事には、HORIBAグループ新本社棟計画、エスコンフィールドタワー、ベドック東部総合病院新築工事(シンガポール保健省)、ロサンゼルスコンベンションセンター増改築工事(米国)などが並びます。繰越工事には大阪IR建設工事(MUSUBIホテル、関西ツーリズムセンター等)、M計画(MUFG本館計画)新築工事、成田国際空港C滑走路南側造成工事、(仮称)Shibuya Upper West Project本体工事といった大型案件が控えています。
2. 今回のIR資料で最も重要なポイント
IR資料全体を通じて、投資家にとって重要と考えられる論点は次の4点です。
ポイント1: 中期経営計画の経営指標目標を全項目クリア
- 2025年度は、中計2022追補の目標(売上高2兆円台半ば・営業利益1,000億円以上・当期純利益1,000億円程度・EPS140円程度・ROIC中期的に5%以上・ROE2026年度10%以上・DOE5%程度)に対し、売上高2兆5,862億円・営業利益1,946億円・純利益1,737億円・EPS249.42円・ROIC8.4%・ROE14.4%・DOE5.1%と、すべての項目で目標を上回りました。
- 会社側が推計する株主資本コスト(8〜9%)に対してROE14.4%であり、エクイティ・スプレッドはプラスを維持しています。
ポイント2: 国内建築の採算改善が増益をけん引
- 営業利益+522億円の増減分析では、単体建築事業で「追加・変更工事獲得や採算性の良い案件の寄与度の高まり」により+631億円の利益改善がありました(完成工事高減少の影響▲175億円を大きく上回る)。
- 単体国内建築の完成工事総利益率は9.1%から14.9%へ大幅に改善し、セグメント別では国内建築の営業利益率が4.7%から9.1%へ上昇しました。
- 海外土木も北米子会社の手持ち工事の順調な進捗で営業利益147億円(+84.5%)と伸長しました。

ポイント3: DOE5%目安の安定配当と1,000億円規模の自己株式取得
- 株主還元方針は「長期安定配当の維持」を基本に、自己資本配当率(DOE)5%程度を目安とした普通配当と機動的な追加還元を組み合わせるもので、過去10年以上減配なく増配基調を続けています。
- 年間配当金は2024年度81円→2025年度88円→2026年度予想94円と増配が続き、2026年度の予想配当性向は41.2%です。
- 2026年度末を期限とする1,000億円規模の自己株式取得のうち、既に700億円(300億円+400億円)を買付実施済みで、残る300億円は2026年度中に実施予定です。2025年度の総還元性向は68.5%に達しました。
ポイント4: 2026年度は増収減益予想 — 利益改善効果の一巡
- 2026年度は売上高2兆9,450億円(+13.9%)と大幅増収の一方、営業利益1,800億円(▲7.5%)、当期純利益1,570億円(▲9.6%)の減益を見込みます。
- 減益の主因は、国内建築事業で「工期終盤にある工事の比率が少なく、追加・変更工事獲得や工事原価低減による利益改善効果が相対的に減少」(▲213億円)することと、人件費等の一般管理費増(▲259億円)です。
- それでもROE予想は12.3%と、経営指標目標の10%を引き続き上回る水準です。
3. 業績動向
2025年度(2026年3月期)の連結業績は以下のとおりです。
| 項目 | 2024年度実績 | 2025年度実績 | 増減 |
|—|—|—|—|
| 売上高 | 2兆5,907億円 | 2兆5,862億円 | ▲45億円(▲0.2%) |
| 営業利益(率) | 1,424億円(5.5%) | 1,946億円(7.5%) | +522億円(+36.6%) |
| 経常利益 | 1,522億円 | 2,041億円 | +519億円(+34.1%) |
| 親会社株主帰属当期純利益 | 1,453億円 | 1,737億円 | +284億円(+19.5%) |
| 受注高 | 3兆3,166億円 | 3兆90億円 | ▲3,075億円(▲9.3%) |
| ROE | 12.6% | 14.4% | +1.8pt |
| ROIC | 6.4% | 8.4% | +2.0pt |
※2024年度実績は為替換算方法の変更に伴う遡及修正を反映。
セグメント別では明暗が分かれました。国内建築は売上高1兆1,387億円(▲1,984億円)と減収ながら営業利益1,040億円(+413億円)・利益率9.1%と大幅増益。国内土木は営業利益409億円とほぼ横ばい、海外土木は完成工事高3,360億円(+34.2%)・営業利益147億円(+84.5%)と好調でした。海外建築は受注高が7,881億円(+65.2%)と急伸した一方、GCON社の買収費用計上などにより営業利益は119億円(▲8億円)にとどまりました。不動産事業は第2四半期の開発物件売却により営業利益199億円(+39億円)と伸長しました。
受注高は連結3兆90億円(▲9.3%)でした。国内建築は前年度の大型案件受注の反動と施工キャパシティに鑑みた選別受注により単体1兆1,613億円(▲23.1%)に減少しましたが、2026年度は1兆2,400億円への回復を見込みます。

財務面では、営業キャッシュ・フローが2,529億円(前期841億円)へ大幅に改善し、フリーキャッシュ・フローは1,685億円のプラス。自己資本は1兆2,584億円(+8.6%)へ増加し、有利子負債は3,440億円(▲5.2%)に減少しました。
2026年度(2027年3月期)の業績予想は、海外建築・土木の豊富な手持ち工事の進捗により売上高2兆9,450億円(+13.9%)と大幅増収ながら、前述の利益改善効果の一巡により営業利益1,800億円(▲7.5%)、当期純利益1,570億円(▲9.6%)の減益想定です。受注高は3兆1,000億円(+3.0%)と高水準を計画しています。
4. 成長戦略・中期的な注目点
受注環境と施工キャパシティ
国内建築では、半導体・工作機械など生産拠点の国内回帰、都市部の大型再開発、データセンター需要を背景に、工事計画情報量は「2029年度まで3兆円を超える高水準」で積み上がっていると説明されています。同社は年間1兆2,000億円程度の施工キャパシティを前提に、採算性を重視した選別受注を継続する方針です。国内土木は防災・減災・国土強靱化に加え、防衛関連施設整備事業への期待が示されています。
海外事業の拡大
北米では、GCON社が強みとする半導体・データセンター分野でAI・クラウド需要を背景とした設備投資が継続し、MWH社(水処理施設)にも旺盛な需要が続いています。2026年度の海外土木受注は6,300億円(+51.2%)と大型案件受注を計画しています。
事業ポートフォリオの拡充 — ジャカルタ高速道路コンセッション
その他のトピックスとして、インドネシア・ジャカルタ都心部の高速道路コンセッション事業(PT JTD JAYA PRATAMA社、全長約31km・総事業費約2,130億円の運営権)への参画が発表されました。現地法人を通じて段階的に株式を取得し(2027年12月予定で持分48.8%)、建設請負にとどまらないインフラ運営への事業拡大を進めます。
投資計画とAI活用
中計2022期間(5年間)の投資計画7,500億円に対し、見通しは8,446億円と計画超過ペースです(開発事業3,626億円、M&A・資本提携等1,086億円など)。また、グローバル経営戦略室に「BPR部」を設置し、AI活用を前提とした業務プロセスへの転換による生産性向上と組織知の最大化を推進しています。

資本政策
政策保有株式は2025年度に660億円を売却したものの、株価上昇(+798億円)により2026年3月末残高は2,888億円(連結純資産比21.9%)となりました。売却合意済み分を含めると17.5%相当まで進んでおり、「2027年3月末までに連結純資産の20%以内」の目標達成に向け縮減を継続します。必要自己資本水準は1兆円と設定し、利益の創出と戦略的な株主還元により自己資本をコントロールする方針です。
5. 投資家が注目すべきポイント
強み
- 中計目標を全項目超過する収益力と、ROE14.4%・ROIC8.4%という資本効率(株主資本コスト8〜9%を明確に上回る)。
- 単体国内建築の完成工事総利益率14.9%という高い採算と、追加・変更工事の獲得力。
- 売上の3分の1を占める海外事業(GCON・MWH等の北米子会社)と、大阪IR・渋谷再開発など大型繰越工事。
- DOE5%目安・10年以上減配なしの安定配当、1,000億円規模の自己株式取得という株主還元の厚み(2025年度総還元性向68.5%)。
懸念点
- 2026年度は営業利益▲7.5%・純利益▲9.6%の減益予想であり、利益改善効果(追加変更工事・原価低減)の一巡を会社側自身が想定していること。
- 国内建築の完成工事総利益率が14.9%から13.0%へ低下する見通しであること。
- 海外建築の営業利益率が2.4%と低く、北米のインフレ・金利動向次第で出件遅れや着工延期のリスクが再燃しうること。
- 政策保有株式が株価上昇により残高ベースでは増加しており、縮減目標(純資産比20%以内)の達成には売却の着実な実行が必要なこと。
今後確認すべき指標
- 単体国内建築の完成工事総利益率(2026年度予想13.0%)と追加・変更工事の獲得状況。
- 海外事業の採算(特に海外建築の利益率改善)と、GCON社・MWH社の業績寄与。
- 自己株式取得の残り300億円の実行と、政策保有株式の縮減進捗(2027年3月末20%以内)。
- 大阪IRをはじめとする大型工事の進捗と、2026年度の増収計画(+13.9%)の達成状況。
- ジャカルタ高速道路コンセッションなど、建設請負以外の事業ポートフォリオ拡充の進展。
6. まとめ
大林組の2026年3月期決算は、国内建築事業の採算改善を主因に営業利益36.6%増を達成し、ROE・ROIC・DOEを含む中期経営計画の経営指標目標をすべて上回る好決算となりました。DOE5%目安の安定配当と1,000億円規模の自己株式取得、政策保有株式の縮減という資本政策も着実に進んでいます。
2026年度は利益改善効果の一巡により減益を見込むものの、ROEは12.3%と目標の10%を上回る見通しです。投資家としては、国内建築の利益率の着地、海外事業の採算改善、株主還元の実行、そして次期中期経営計画で示される新たな目標水準を継続的に確認していくことが重要です。
※本記事は公開情報をもとにした分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。