〜過去最高益ラッシュの中身と、各社の戦略の違い〜
はじめに
今回の記事では、上場スーパーゼネコン4社(鹿島建設・大成建設・大林組・清水建設)が公開している2026年3月期(2025年度)の決算説明資料をもとに、4社の業績・収益性・株主還元・戦略の違いを比較して整理します。4社はいずれも大幅増益となり、過去最高益の更新が相次ぐ好決算となりました。その共通要因と各社の個性を読み解きます。
※スーパーゼネコンは通常、竹中工務店を含む5社を指しますが、同社は非上場のため本記事では上場4社を対象とします。
※本記事は各社の公開IR資料をもとに作成したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
1. 4社の業績比較(2026年3月期実績)
まず、2025年度(2026年3月期)の連結業績を比較します。

規模では鹿島建設が売上高3兆円超・受注高3兆2,639億円と頭一つ抜けており、5期連続の増収増益で売上・利益とも過去最高を更新しました。営業利益率とROEでは大成建設がそれぞれ9.0%・18.7%と4社トップです。増益率では清水建設が営業利益+67.0%・純利益+91.8%と最も高い伸びを示しました。大林組は売上横ばいながら営業利益+36.6%と採算改善型の増益で、中期経営計画の経営指標目標を全項目でクリアしています。
注目すべきは、増収率と増益率が連動していない点です。大成建設と大林組は減収でも大幅増益を達成しており、4社に共通するのは「売上の量ではなく工事採算の質」で稼ぐ構図への転換です。なお、建設受注高は鹿島3兆2,639億円・大成2兆4,362億円・大林3兆90億円・清水2兆1,585億円と、いずれも高水準を維持しています。

2. 共通ドライバー: 国内建築の採算改善
4社の大幅増益をけん引したのは、いずれも国内建築事業の利益率改善です。各社資料の記載から拾うと以下のとおりです。

改善幅が最も大きいのは大成建設(+7.5pt)で、2023年度前後に受注した採算の厳しい工事が一巡し、資機材高騰分の価格転嫁や選別受注が進んだことがうかがえます。大林組は単体国内建築で14.9%と絶対水準で4社最高であり、「追加・変更工事獲得や採算性の良い案件の寄与度の高まり」だけで631億円の利益改善効果があったと説明しています。清水建設は質疑応答で「2025年度第4四半期の国内建築利益率は14.9%」「不採算・低採算工事の割合が2025年度の20%程度から2026年度は15%程度に減る見通し」と説明しています。
背景として、清水建設は事業環境認識で「大都市圏の大規模再開発」「半導体・自動車・医薬品などの工場」「生成AI需要拡大を受けたデータセンター投資」「ラグジュアリーホテル投資」の活況を挙げており、鹿島建設も「国内建設需要は引き続き高水準」、大林組も「工事計画情報量は2029年度まで3兆円を超える高水準」としています。旺盛な需要を背景に、各社が施工キャパシティを見極めながら採算重視の受注を進められる環境が、業界全体の利益率を押し上げていると読み取れます。

3. 2026年度(2027年3月期)予想の比較 — 明暗が分かれる
好調だった2025年度に対し、2026年度の会社予想は4社で方向感が分かれます。

営業増益を見込むのは清水建設のみです。同社は国内建築の大型工事が最盛期を迎えることに加え、手持ち工事の採算改善(追加変更工事の獲得)を織り込み、利益率予想を13.9%まで引き上げています。大成建設・大林組は大型工事の進捗で2桁増収となるものの、販管費増加や利益率の一服で営業利益は横ばい〜減益の想定です。
鹿島建設は唯一の減収減益予想ですが、これは2025年度に業績押し上げ要因が重なった反動であり、当期純利益1,700億円は中期経営計画の目標「1,300億円以上」を大きく上回る水準です。
純利益段階では、大成建設が金利上昇・政策保有株式売却益の減少・賃上げ促進税制終了という外部要因で▲11.2%、大林組も利益改善効果の一巡で▲9.6%の減益を見込みます。各社とも2025年度の利益には政策保有株式の売却益が相応に含まれており(清水建設879億円、大成・大林・鹿島も売却を実施)、売却益の減少をどこまで本業の増益で吸収できるかが2026年度の焦点です。

4. 株主還元・資本政策の比較
「資本コストや株価を意識した経営」への対応も4社共通のテーマですが、打ち手には個性が出ています。

配当性向は鹿島・大成・清水の3社が40%前後に収れんしつつあります。大成建設は2026年度から下限付き配当性向を30%→40%へ引き上げ、減益予想でも380円への増配を掲げる積極姿勢です。清水建設は38円→72円→77円(予想)と2年で配当が倍増しています。大林組は自己資本配当率(DOE)5%程度を目安とする独自の配当方針を採用し、過去10年以上減配なく増配を継続。2026年度末を期限とする1,000億円規模の自己株式取得も進めており、2025年度の総還元性向は68.5%に達しました。
政策保有株式の縮減も比較のポイントです。
- 鹿島建設: 2026年度末までに連結純資産の20%未満。3年間の売却額を計画比400億円増の900億円程度へ増額。
- 大成建設: 2026年度末までに連結純資産の20%未満(2025年度末28.0%)。売却応諾済かつ未売却552億円。
- 清水建設: 2027年3月末までに20%以下、2029年3月末までに10%以下。売却合意済銘柄を除く実質残高は既に9.1%。
- 大林組: 2027年3月末までに連結純資産の20%以内。2025年度に660億円を売却したが、株価上昇の影響で残高は2,888億円(純資産比21.9%、売却合意済みを含めると17.5%相当)。
清水建設の縮減スケジュールが最も踏み込んでおり、2025年度は39銘柄・1,091億円と過去最大の売却を実施しました。
5. 各社の特徴と投資家の注目ポイント
鹿島建設(1812)— 規模とバランスの首位、サプライチェーン強化に独自色
- 売上3兆円・受注3兆2,639億円と規模で首位。5期連続増収増益。
- 財務戦略の更新では、株主還元拡充に加えて「協力会社への支払早期化等によるサプライチェーン強化に1,000億円程度」という独自の資金使途を明示。担い手不足という業界の構造課題への布石です。
- PBRは2倍超。注目点は、2026年度の減益予想を超えて次期中計でどこまで成長目標を引き上げるか。
大成建設(1801)— 収益性・資本効率のトップランナー
- 営業利益率9.0%、ROE18.7%、PBR2.8倍と質的指標で4社トップ。
- 東洋建設の完全子会社化(海洋土木)など、M&Aで土木の総合力を強化。
- 注目点は、建築利益率11.9%の持続性と、外部要因による減益予想(▲11.2%)を跳ね返せるか。
大林組(1802)— 中計目標の全項目クリアとDOE配当
- ROE14.4%・ROIC8.4%・DOE5.1%と、中期経営計画2022(追補)の経営指標目標を全項目で上回りました。
- 大阪IR建設工事、MUFG本館計画、Shibuya Upper West Projectなど注目度の高い大型繰越工事を抱え、2026年度は+13.9%の大幅増収を計画。海外建築の受注は+65.2%と急伸し、営業キャッシュ・フローは2,529億円へ大幅改善しました。
- 注目点は、増収局面での利益率維持(完成工事総利益率13.6%→予想12.1%)と、GCON社など北米子会社を含む海外案件の採算管理。ジャカルタ高速道路コンセッション参画など建設請負以外への事業拡大も進めています。
清水建設(1803)— 増益モメンタムと構造改革の加速
- 純利益+91.8%と増益率トップ。2026年度も4社で唯一の営業増益予想(+28.9%)。
- 政策保有株式の縮減が最も急進的(実質残高9.1%)で、あおみ建設(洋上風力への布石)・AEC社(米軍基地・グアム)などM&Aも活発。
- 注目点は、単体海外建築の赤字(利益率▲5.4%)の黒字化と、営業利益率5.8%と4社最下位の収益性をどこまで引き上げられるか。

6. まとめ
2026年3月期のスーパーゼネコン4社の決算は、国内建築の採算改善という共通ドライバーによる「質の増益」で足並みが揃いました。データセンター・半導体工場・都市再開発という旺盛な需要を背景に、選別受注と価格転嫁が機能した結果であり、配当性向40%前後(大林組はDOE5%目安)への株主還元強化、政策保有株式の縮減という資本政策の方向性も共通しています。
一方で2026年度は、清水建設のみが営業増益を見込み、他3社は反動減・外部要因により減益予想と明暗が分かれます。投資家としては、①各社の建築利益率の持続性、②政策保有株式売却益に依存しない本業の稼ぐ力、③受注環境の変化(設備サブコンの繁忙、資材価格、国際情勢)、④次期中期経営計画で示される成長目標——を横比較しながら確認していくことが重要です。
※本記事は公開情報をもとにした分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。