〜2026年3月期 決算説明会資料〜
はじめに
今回の記事では、清水建設(証券コード1803)が公開している2026年3月期(2025年度)決算説明会資料をもとに、同社の事業内容、業績動向、成長戦略、そして投資家が注目すべきポイントを整理します。2025年度は国内建築工事の採算改善を主因に営業利益が前期比476億円増(+67%)の1,186億円となり、年間配当金は34円増配の72円となりました。政策保有株式の縮減加速やM&Aによる事業拡大など、資本効率と成長の両面で動きの多い決算です。
※本記事は公開IR資料をもとに作成したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
1. 会社概要
清水建設は「子どもたちに誇れるしごとを。」を掲げる大手総合建設会社(スーパーゼネコン)です。決算説明会資料からは、事業を以下の区分で開示していることが読み取れます。
- 建設事業(建築・土木、国内・海外):単体売上高の約94%を占める中核事業。国内建築が単体売上高1兆1,396億円と最大。
- 開発事業等:不動産開発・賃貸など。単体売上高999億円ながら利益率21.9%と高採算。
- 子会社:日本道路(TOBで完全子会社化)や前期取得の海外建設子会社2社など。子会社売上高は4,683億円。
事業環境としては、大都市圏の大規模再開発、半導体・自動車・医薬品などの工場新増設、生成AI需要拡大を受けたデータセンター投資、インバウンドによるラグジュアリーホテル投資が活発と会社側は認識しています。2025年度の主な受注工事には、内幸町一丁目街区南地区再開発A棟、赤坂七丁目2番地区再開発、アレクサンドラ総合病院外来病棟(シンガポール政府)、中央新幹線第二大井トンネル(JR東海)などが並びます。
2. 今回のIR資料で最も重要なポイント
IR資料全体を通じて、投資家にとって重要と考えられる論点は次の5点です。
ポイント1: 国内建築の採算改善による大幅増益
- 営業利益は710億円から1,186億円へ476億円の増益。増減分析によると、うち489億円が単体建築の完成工事総利益の増加によるものです。
- 単体国内建築の利益率は7.6%から11.6%へ改善し、2026年度は13.9%まで高まる予想です。
- 質疑応答では、2025年度第4四半期の国内建築利益率は14.9%と非常に好調で、完成工事高に占める不採算・低採算工事の割合が2025年度の20%程度から2026年度は15%程度に減る見通しと説明されています。
ポイント2: 34円増配、配当性向40%目安の株主還元
- 年間配当金は38円から72円へ34円の大幅増配となり、2026年度はさらに5円増配の77円を予想しています。
- 株主還元方針は「1株当たり配当金の下限を年20円としたうえで、連結配当性向40%を目安に還元」というもので、2026年度の予想配当性向は40.2%です。
- 2025年度は自己株式取得100億円も実施しました(総還元性向46.5%)。

ポイント3: 政策保有株式の縮減を加速
- 2025年度は39銘柄・1,091億円と過去最大規模の売却を実施し、売却益879億円を計上しました。
- 縮減スケジュールを変更し、「2027年3月末までに連結純資産の20%以下(売却合意済銘柄を含めると10%以下)、2029年3月末までに10%以下」を掲げています。
- 2026年3月末の残高は2,438億円(連結純資産比24.4%)ですが、売却合意済未売却銘柄(57銘柄・1,530億円)を除いた実質残高は908億円で、連結純資産の9.1%まで縮減が進んでいます。
ポイント4: M&Aによる事業拡大
- 海洋土木・地盤改良に強い「あおみ建設」を2026年3月に連結子会社化(6月下旬に完全子会社化予定)。洋上風力事業分野での協働を狙います。
- 沖縄本社の米国籍建設会社「American Engineering Corporation (Okinawa)」(売上約500億円、グアムなどアジア太平洋で事業展開)の完全子会社化も決定し、米軍基地工事やデータセンター関連のITインフラ工事への対応力を強化します。
- 中期経営計画の投資枠とは別枠で、M&Aに累計897億円を投じています(日本道路の完全子会社化などを含む)。
ポイント5: 受注高の急増と反動減の想定
- 2025年度の単体建設事業受注高は1兆8,045億円と前期比41.3%増加しました(国内建築+36.6%、国内土木+52.8%)。
- 一方、2026年度は1兆4,500億円(▲19.6%)と反動減を見込んでいます。
3. 業績動向
2025年度(2026年3月期)の連結業績は以下のとおりです。
| 項目 | 2024年度実績 | 2025年度実績 | 増減 |
|—|—|—|—|
| 売上高 | 1兆9,443億円 | 2兆578億円 | +1,134億円 |
| 売上総利益(率) | 1,954億円(10.1%) | 2,580億円(12.5%) | +626億円 |
| 営業利益(率) | 710億円(3.7%) | 1,186億円(5.8%) | +476億円 |
| 経常利益 | 716億円 | 1,223億円 | +506億円 |
| 親会社株主帰属当期純利益 | 660億円 | 1,266億円 | +606億円 |
| ROE | 7.6% | 13.8% | +6.2pt |
| 建設事業受注高 | 1兆5,880億円 | 2兆1,585億円 | +5,705億円 |
増収は、国内建築・土木工事の施工が順調に進捗したことに加え、前期にM&Aで取得した海外建設子会社2社の業績が反映されたことによるものです。当期純利益の大幅増(+606億円)には、営業増益476億円に加えて政策保有株式の売却益879億円(前期比+488億円)が寄与しており、一方で減損損失244億円も計上しています。負ののれん発生益59億円も含まれます。
セグメント別では、単体国内建築が売上高1兆1,396億円(+808億円)・利益率11.6%(+4.0pt)と好調をけん引した一方、単体海外建築は利益率▲5.4%と赤字が続いています。国内土木は売上高2,591億円・利益率10.0%と安定しています。開発事業等は売上高999億円(▲196億円)と減収でした。
2026年度(2027年3月期)の連結業績予想は、売上高2兆3,100億円(+2,521億円)、営業利益1,530億円(+343億円)、当期純利益1,300億円(+33億円)です。国内建築の大型工事の施工が最盛期を迎えることに加え、あおみ建設の業績も反映されます。当期純利益の増益幅が小さいのは、政策保有株式の売却益が490億円へ減少(▲391億円)する見込みのためで、本業の増益でこれを吸収する計画です。

4. 成長戦略・中期的な注目点
中期経営計画〈2024-2026〉の投資計画(3か年3,600億円)は、2026年3月末までに累計2,350億円と概ね順調に進捗しています。内訳は以下のとおりです。
- 不動産開発(2,000億円枠、累計1,130億円):国内は取組みアセットの多様化、海外は不動産回転型・開発型ビジネスモデルへの転換を推進。
- 生産性向上・研究開発(850億円枠、累計694億円):最先端技術・機械の開発、デジタル関連投資。
- 人財(400億円枠、累計332億円):高度人財の獲得・育成、DE&I・Well-being推進。
- グリーンエネルギー開発(300億円枠、累計169億円):再エネ発電事業の拡大、水素活用などの新エネルギー電源の開発。
- M&A(別枠、累計897億円):日本道路の完全子会社化、海外高級内装工事会社・あおみ建設等の取得。

成長分野については、質疑応答で「半導体やデータセンターなどの案件は今後も需要が旺盛で、さらに伸びていく分野」「中長期的にはリニューアル案件が増えていく見通しで、一般的にリニューアル案件は採算性が良いことから注力していく」と説明されています。あおみ建設・AEC社の取得は、それぞれ洋上風力・米軍基地/データセンター工事という成長領域への布石と位置づけられます。
財務面では、自己資本が9,779億円(+1,178億円)へ増加し、自己資本比率36.8%(+2.7pt)、D/Eレシオ0.58倍(前期0.69倍)と改善しています。また、ガバナンス面では業績連動型株式報酬制度(BIP信託)の導入を株主総会に付議するほか、2026年4月にIR・SR推進部を新設し、株主・投資家との対話強化を進めています。
5. 投資家が注目すべきポイント
強み
- 国内建築の利益率改善(7.6%→11.6%→予想13.9%)と、不採算工事割合の低下という収益体質の好転。
- 受注高1兆8,045億円(+41.3%)という豊富な手持ち工事と、データセンター・半導体・再開発など旺盛な国内需要。
- 政策保有株式の縮減加速(実質残高は連結純資産の9.1%)と、それを原資とした株主還元・成長投資。
- 配当性向40%目安・下限20円という明確な株主還元方針と、2年連続の大幅増配(38円→72円→77円予想)。
懸念点
- 単体海外建築の赤字継続(利益率▲5.4%)。2026年度は4.4%への黒字転換を予想するものの、その実現性。
- 当期純利益に占める政策保有株式売却益の比重が大きく、売却一巡後の利益水準(2026年度は売却益減少を本業増益で補う計画)。
- 質疑応答で会社側も認める「設備サブコンの超繁忙」による案件見直し・受注辞退の動きと、中東情勢・関税政策など外部環境の不確実性。
- 受注時採算の改善は「2024年度に大幅改善してからは横ばい」との説明であり、利益率改善が今後鈍化する可能性。
今後確認すべき指標
- 単体国内建築の利益率(2026年度予想13.9%)の達成状況と、不採算・低採算工事割合の低下。
- 海外建築事業の黒字化と、あおみ建設・AEC社の連結寄与、シナジーの実現状況。
- 政策保有株式の売却進捗(2027年3月末20%以下・2029年3月末10%以下の目標)。
- 受注高の反動減(予想▲19.6%)の程度と、データセンター・リニューアル分野の受注動向。
6. まとめ
清水建設の2026年3月期決算は、国内建築の採算改善を主因とする営業利益67%増、ROE13.8%への上昇、34円の大幅増配と、収益力・株主還元の両面で大きく前進した内容でした。政策保有株式の縮減は実質ベースで連結純資産の9.1%まで進み、その資金をM&A(あおみ建設・AEC社)や成長投資に振り向ける好循環が見えつつあります。
今後は、2026年度に政策保有株式売却益の減少を本業の増益(営業利益1,530億円予想)で補えるか、海外建築の黒字化とM&Aシナジーを実現できるかが焦点となります。投資家としては、国内建築の利益率・受注動向・政策保有株式の縮減進捗・M&A企業の統合状況を継続的に確認していくことが重要です。
※本記事は公開情報をもとにした分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。