※本記事は各社が公開したIR資料(2026年3月期 決算説明資料)に基づく事実整理であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。金額は各社開示に基づく連結ベースで、原則として億円単位で記載しています。利益指標の定義や集計方法は会社ごとに異なる場合があります。
はじめに
総合不動産(デベロッパー)大手5社の2026年3月期(2025年度)決算が出そろいました。結論から言えば、5社すべてが増収増益で過去最高益を更新するという、そろい踏みの好決算でした。オフィス賃料の上昇、分譲・投資家向け売却の好調、そしてホテルや仲介などの周辺事業の伸長が、各社に共通する追い風となっています。
一方で、規模・収益性・資本効率・株主還元の「質」を横並びにすると、各社の戦略の違いがはっきりと見えてきます。本記事では、三井不動産(8801)・三菱地所(8802)・住友不動産(8830)・野村不動産ホールディングス(3231)・東急不動産ホールディングス(3289)の5社について、公開IR資料をもとに数字を並べ、どこが同じで、どこが違うのかを整理します。
1. 5社の業績比較(2026年3月期実績)
まず通期実績を横並びにします。売上(営業収益)・営業利益ともに規模で先行するのは三井不動産と三菱地所、続いて賃貸主導の住友不動産という順です。当期純利益の伸び率では、仲介やオフィス稼働改善が効いた東急不動産HD(+24.6%)と、海外・投資マネジメントの反動を丸の内などで補った三菱地所(+17.5%)が目立ちます。
| 企業(コード) | 営業収益/売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 純利益 前期比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三井不動産(8801) | 27,097 | 3,977 | 3,133 | 2,786 | +12.0% |
| 三菱地所(8802) | 17,461 | 3,297 | 2,731 | 2,225 | +17.5% |
| 住友不動産(8830) | 10,577 | 2,991 | 2,892 | 2,125 | +10.9% |
| 東急不動産HD(3289) | 12,460 | 1,669 | 1,478 | 967 | +24.6% |
| 野村不動産HD(3231) | 9,425 | 1,382 | 1,248 | 828 | +10.8% |
(単位:億円。営業利益の大きい順。三井不動産と野村不動産HDは主要利益指標として「事業利益」を用いており、三井は事業利益4,451億円〈+11.6%〉、野村は事業利益1,473億円〈+17.8%〉。上表の営業利益は各社の損益計算書ベースにそろえています。)
2. 共通ドライバー:インフレ下の賃料上昇と資産回転
5社の増益に共通する背景は、大きく次の3点です。いずれも「デフレからインフレへ」という不動産市況の転換を映しています。
- オフィス賃料の上昇局面入り:都心の需給逼迫を受け、各社とも賃料の増額改定が進行。住友不動産は最大20%超・平均7%台の値上げ実績を示し、東急不動産HDは広域渋谷圏で「改定は全件増額合意、増額率は全体で15%に迫る」と開示しました。
- 分譲・投資家向け売却と資産回転の加速:完成在庫や保有物件の売却益が利益を押し上げ。三井不動産は分譲事業が+15.6%、野村不動産HDは都市開発の売却売上が1,133→2,183億円へ倍増しました。
- 周辺事業(ホテル・仲介など)の伸長:三井不動産はホテル・リゾートのRevPARが前期比110%超、東急不動産HDは仲介事業の営業利益が5年で約4.1倍と、非分譲の収益源が育っています。
金利上昇は逆風になり得ますが、各社とも有利子負債の固定金利比率・長期比率が高く(住友不動産は固定81%・長期94%)、当面は賃料増で利払い増を吸収できるとの説明が目立ちました。
3. 2027年3月期予想の比較 — 増益基調は続くが伸び率に差
会社側の2027年3月期(2026年度)予想も、5社すべてが引き続き増益・過去最高更新を見込みます。ただし伸び率には差があり、営業利益の増益率では東急不動産HD(+13.8%)と三菱地所(+12.2%)が高く、規模の大きい三井不動産は+3.1%と着実路線、野村不動産HDは海外事業の利益ゼロ想定もあって営業利益で+1.3%の小幅増にとどまる計画です。
| 企業(コード) | 営業利益(予想) | 前期比 | 当期純利益(予想) | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 三井不動産(8801) | 4,100 | +3.1% | 2,850 | +2.3% |
| 三菱地所(8802) | 3,700 | +12.2% | 2,350 | +5.6% |
| 住友不動産(8830) | 3,200 | +7.0% | 2,230 | +4.9% |
| 東急不動産HD(3289) | 1,900 | +13.8% | 1,000 | +3.4% |
| 野村不動産HD(3231) | 1,400 | +1.3% | 860 | +3.8% |
(単位:億円。野村不動産HDの事業利益予想は1,500億円〈+1.8%〉、三井不動産の事業利益予想は4,500億円〈+1.1%〉。三菱地所は海外物件売却益の約7割を確定済みとし、営業利益3,700億円で過去最高を見込みます。)
4. 収益性・株主還元・資本政策の比較
規模では三井・三菱が先行する一方、資本効率(ROE)と収益性(営業利益率)では中堅勢が上位に来るのが今回の特徴です。ROEは東急不動産HD(11.2%)・野村不動産HD(10.7%)が2桁で、規模最大の三井(8.7%)・三菱地所(8.5%)を上回ります。営業利益率では、賃貸事業のウエイトが高い住友不動産が28.3%と突出しています。
| 企業(コード) | ROE | 営業利益率 | 年間配当(26/3→27/3) | 主な株主還元 |
|---|---|---|---|---|
| 三井不動産(8801) | 8.7% | 14.7% | 35円→37円 | 総還元性向54.9%・自己株570億円取得 |
| 三菱地所(8802) | 8.5% | 18.9% | 46円→49円 | 累進配当(毎期+3円)・自己株1,300億円(25年度) |
| 住友不動産(8830) | 実質10.3%※ | 28.3% | 44円→年8円以上累進 | 自己株605億円・1→2株の株式分割 |
| 東急不動産HD(3289) | 11.2% | 13.4% | 48円→50円 | 配当性向35%以上・累進配当を導入 |
| 野村不動産HD(3231) | 10.7% | 14.7% | 40円→44円 | 配当性向41.4%・DOE4%下限・総還元40〜50% |
(営業利益率は営業利益÷営業収益の当方算出値。住友不動産のROEは同社独自の「実質ROE」〈保有有価証券評価差益を除く自己資本ベース、直近値10.3%〉であり、他社の一般的なROEとは定義が異なる点に注意が必要です。三菱地所・野村・東急のROEは会社開示値、三井は同社開示の8.7%。)
株主還元は5社とも強化局面にあります。三井不動産は総還元性向54.9%・570億円の自己株取得、三菱地所は「毎期+3円」の累進配当と累計1,300億円の自己株取得、東急不動産HDは配当性向35%以上と累進配当の導入、野村不動産HDはDOE4%を下限とする総還元性向40〜50%の方針を掲げます。住友不動産は年9円増配(35→44円、分割考慮後)と従業員向けの株式報酬拡大が特徴です。
5. 各社の特徴と投資家の注目ポイント
三井不動産(8801)— 規模首位、中計目標を1年前倒しで達成
売上・利益ともに業界最大。事業利益4,451億円・純利益2,786億円で、長期経営方針「&INNOVATION 2030」の2026年度利益目標とROE目標(8.5%以上)を1年前倒しで達成しました。賃貸・分譲・マネジメント・施設営業の主要4事業がそろって過去最高で、首都圏オフィス空室率は1.3%と低水準。総還元性向50%以上・累進配当・機動的な自己株取得という還元方針も明確です。注目点は、規模の大きさゆえに伸び率が緩やかになるなかで、ROAの引き上げ(目標5%以上)と政策保有株の縮減(3か年で50%)をどこまで進められるかです。

三菱地所(8802)— 丸の内と海外売却益、累進配当でROE10%へ
営業利益3,297億円・純利益2,225億円(+17.5%)でともに過去最高。ROEは前年度末7.6%から8.5%へ改善し、2030年度10%を目指します。丸の内の空室率0.55%という圧倒的な優良資産に加え、海外事業の物件売却益が利益を押し上げました。2027年3月期は海外売却益の約7割を確定済みとし、営業利益3,700億円(+12.2%)を計画。毎期+3円の累進配当(2030年度60円以上)と、過去7年で4,100億円という積極的な自己株取得が投資妙味です。投資マネジメント事業の反動減や、営業収益に占める売却益の変動には目配りが要ります。

住友不動産(8830)— 賃貸主導の高収益率、完成在庫を「財産」に
営業利益率28.3%は5社で群を抜きます。オフィス賃貸を中核に、経常利益5期連続・純利益13期連続の最高益を更新しました。約3年分・6,000戸超の完成在庫を安易に値引きせず「財」として高利益率で回す独自戦略や、ムンバイBKCなどインド事業の立ち上がりが特徴です。第十次中期経営計画(3か年で経常9,000億円)は1年目から進捗率3割超と好スタート。2026年1月に1→2の株式分割を実施し、年9円増配と従業員還元を打ち出しました。有利子負債は約4兆円と大きく、金利上昇局面での財務コントロールが引き続きの焦点です。

野村不動産ホールディングス(3231)— 高ROE・資産回転、政策保有株ゼロ
売上高9,425億円(+24.4%)と大きく伸び、事業利益1,473億円・14期連続増配を実現。ROE10.7%・ROA5.4%と資本効率は5社上位で、資本コスト(約8%)を上回るROEを確保しました。大型再開発「BLUE FRONT SHIBAURA」が竣工・開業し、収益不動産の売却を加速して資金を回転させる姿勢が鮮明です。政策保有の上場株式は期末でゼロにするなど、資本規律の徹底も評価点。一方、2027年3月期は地政学リスクを織り込み海外事業利益をゼロと保守的に見込むため、営業利益の伸びは小幅にとどまる計画です。

東急不動産ホールディングス(3289)— 最高ROE、仲介と広域渋谷圏が牽引
純利益+24.6%・ROE11.2%は5社トップの資本効率。5期連続の増収増益で、「中期経営計画2030」の2028年3月期財務目標を1〜2年前倒しで超過達成する計画です。牽引役は業界首位級の仲介事業(営業利益561億円、5年で約4.1倍)と、オフィス賃料が全件増額・約15%増となった広域渋谷圏戦略。SBIホールディングスとの資本業務提携やDX投資(2030年度まで累計1,000億円以上)など、成長投資にも積極的です。D/Eレシオ2.0倍と財務レバレッジは高めで、投資回収の規律が注目点となります。

6. まとめ
2026年3月期は、5社すべてが過去最高益という「そろい踏み」の決算でした。共通するのはインフレ局面の賃料上昇と資産回転の加速という追い風です。そのうえで各社を色分けすると、規模と総合力の三井・三菱地所、賃貸主導で高収益率の住友、資本効率と資産回転で先行する野村・東急、という構図が浮かびます。
好決算がそろったからこそ、投資家が次に確認したいのは「増益の質と持続性」です。とくに次の4点が、今後の各社を見比べるうえでのチェックポイントになります。
- 賃料上昇の持続性:オフィス増額改定のペースと空室率が、来期以降も維持できるか。
- 売却益への依存度:営業利益に占める物件売却益の比率と、その再現性(開発パイプラインの厚み)。
- 資本効率と還元の両立:ROE目標(三井・三菱の8.5〜10%、東急・野村の10%超)と、累進配当・自己株取得・政策保有株縮減の進捗。
- 金利上昇への耐性:有利子負債の固定・長期比率と、賃料増で利払い増を吸収できるかの収支バランス。
※記載の数値・比率は各社の2026年3月期 決算説明資料等の公開情報に基づきます。予想値は会社計画であり、実績を保証するものではありません。本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任でお願いいたします。