株式会社大林組

【大林組】IR資料から読み解く投資ポイント 〜2025年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料〜

IR資料 2026.06.19
【大林組】IR資料から読み解く投資ポイント 〜2025年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料〜

〜2025年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料〜

はじめに

今回の記事では、株式会社大林組(証券コード:1802)が公開している2025年3月期 決算説明会資料をもとに、同社の事業内容、業績動向、成長戦略、投資家が注目すべきポイントを整理します。

※本記事は公開IR資料をもとに作成したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

目次

1. 会社概要

大林組は、スーパーゼネコンの一角を占める総合建設会社です。収益の柱は建設事業であり、建築・土木の請負工事から収益を上げています。資料では事業が以下のセグメントに区分されています。

  • 国内建築事業 … 連結売上高の中心。2024年度(2025年3月期)の売上高は1兆3,371億円
  • 海外建築事業 … 北米子会社ウェブコーやシンガポール子会社などを含む。売上高4,987億円
  • 国内土木事業 … 官庁工事・インフラ工事が中心。売上高4,022億円
  • 海外土木事業 … 米国の水処理大手MWH社の連結子会社化などにより拡大。売上高2,586億円
  • 不動産事業・その他 … 分譲マンションや賃貸物件、開発事業など。売上高1,232億円

連結売上高2兆6,201億円のうち建設事業が大半を占め、なかでも国内建築事業が売上構成比51.0%、営業利益構成比43.8%と大きな存在感を持っています。国内建設事業(建築+土木)で見ると売上構成比66.4%、営業利益構成比72.1%に達し、国内建設を中核とした収益構造であることが分かります。

大林組の2024年度連結事業別の売上高構成比と営業利益構成比を示す円グラフ
2024年度の連結事業別 売上高・営業利益構成比。国内建設事業(建築+土木)が売上の66.4%、営業利益の72.1%を占め、国内建設を中核とした収益構造であることが分かります。

ビジネスモデルの特徴は、高い施工技術と長年の実績に裏打ちされたブランド力にあります。生産拠点の国内回帰や半導体・データセンター関連の旺盛な建設需要、官庁の防災・減災・国土強靱化対策など、幅広い分野での需要を取り込める点が競争優位性につながっています。一方で、近年は施工キャパシティやサプライチェーンの確保を考慮し、採算性を重視して案件を厳選する姿勢を強めています。

2. 今回のIR資料で最も重要なポイント

IR資料全体を読んだうえで、特に重要と考えられる論点を整理します。

ポイント1: 2024年度は大幅増益で着地

  • 連結営業利益は前期比+80.7%の1,434億円、当期純利益は同+94.6%の1,460億円と大きく伸びました。
  • 国内建設事業における採算性の良い案件への入れ替えや追加請負金の獲得、前年度に買収したMWH社の連結子会社化などが寄与しています。
  • 投資家は、この増益が一過性の要因(政策保有株式売却益や設計変更による追加請負金など)にどこまで支えられているかを見極める必要があります。

ポイント2: 2025年度は一転して減収減益を計画

  • 2025年度(2026年3月期)の会社計画は、売上高2兆5,600億円(前期比△2.3%)、営業利益1,220億円(同△14.9%)、当期純利益1,000億円(同△31.5%)と減益を見込んでいます。
  • 国内建築事業の大型案件竣工の反動、国内土木の設計変更獲得の反動減、北米の建築需要の落ち込み、賃上げ等による一般管理費の増加が主因です。
  • なぜ重要かというと、2024年度の好決算が「巡航速度」ではない可能性を示すためです。投資家は減益計画の保守性と実際の進捗を確認すべきです。

ポイント3: 資本効率を意識した経営への転換

  • 2024年度のROEは12.6%と、中期経営計画2022追補で掲げた「2026年度10%以上」を前倒しで上回りました。
  • 株式市場が期待する株主資本コスト(同社推計で8〜9%)を上回り、エクイティ・スプレッドのプラスを実現しています。
  • ただし2025年度のROEは8.6%と再び株主資本コスト近辺まで低下する見通しであり、目標水準の持続性が問われます。

ポイント4: 政策保有株式の縮減と株主還元の強化

  • 政策保有株式は2025年3月末で2,735億円(前期比△1,300億円)まで縮減し、連結純資産比は22.6%。売却合意済み額を含めると15.8%まで低下します。
  • 株主還元は自己資本配当率(DOE)5%程度を目安とした普通配当に加え、機動的な追加還元を実施。2026年度末を期限とする1,000億円規模の自己株式取得も進行中です。

ポイント5: 事業ポートフォリオ拡大に向けた成長投資

  • 米国水処理大手のMWH社(2023年12月取得)、国産CLT材最大手のサイプレス・スナダヤ、英国ロンドンの大型開発「60 Gracechurch Street」など、国内建設の枠を超えた投資を積極化しています。
  • 中期経営計画2022期間の投資計画は総額7,500億円で、うち2022〜2024年度に4,516億円を実行済みです。

3. 業績動向

2024年度(2025年3月期)の連結業績は、以下のとおり全項目で大幅な増収増益となりました。

  • 連結売上高: 2兆6,201億円(前期比+2,949億円、+12.7%)
  • 連結営業利益: 1,434億円(前期比+640億円、+80.7%)
  • 経常利益: 1,533億円(前期比+618億円)
  • 親会社株主に帰属する当期純利益: 1,460億円(前期比+709億円、+94.6%)
  • 連結受注高: 3兆3,572億円(前期比+8,441億円、+33.6%)
大林組の2024年度連結売上高・営業利益・当期純利益・受注高の実績と増減を示すサマリー
2024年度の連結業績サマリー。売上高2兆6,201億円、営業利益1,434億円、当期純利益1,460億円、受注高3兆3,572億円と全項目で大幅な増収増益となりました。

増収の主因は、国内建設事業における手持ち工事の順調な進捗と、海外土木事業におけるMWH社の連結子会社化です。増益については、国内建設事業での採算性の良い案件への入れ替えや追加請負金の獲得が大きく寄与しました。営業利益率も前期の3.4%から5.5%へと改善しています。

セグメント別では、国内建築事業の営業利益が242億円から627億円へ(営業利益率1.9%→4.7%)、国内土木事業が263億円から405億円へ(同7.1%→10.1%)と、国内建設の採算改善が全体を牽引しました。海外土木事業はMWH社の寄与もあり、前期の△37億円から82億円へと黒字転換しています。一方、不動産事業は竣工物件の減価償却費発生などにより182億円から161億円へ減益となりました。

財務面では、連結自己資本が1兆1,582億円、ROICが6.4%(前期比+2.6pt)、ROEが12.6%(同+5.6pt)。営業活動によるキャッシュ・フローは856億円のプラスを確保し、現金及び現金同等物の期末残高は前期末比534億円増の3,801億円となりました。なお有利子負債は3,627億円と前期比+388億円増加しており、工事進捗に伴う先行支払いや不動産投資を資金調達で賄ったことが背景にあります。

4. 成長戦略・中期的な注目点

同社は「中期経営計画2022」とその追補(2024年5月公表)に基づき、資本効率と株主還元を重視した経営を進めています。

経営指標目標(KPI)では、2026年度のROE10%以上、DOE5%程度、連結営業利益1,000億円以上、当期純利益1,000億円程度、必要自己資本水準1兆円などが掲げられています。2024年度実績はROE12.6%、当期純利益1,460億円と、いずれも目標を上回って着地しました。

大林組の当期純利益目標・ROE目標と2024年度実績、ROE推移を示す資本政策の図
2024年度のROEは経営指標目標を上回る12.6%となり、株式市場が期待する株主資本コスト(8〜9%)を上回るエクイティ・スプレッドのプラスを実現しました。

中期経営計画2022期間(5年間)の投資計画は総額7,500億円で、内訳は人材・DX・技術などの無形資産投資、工事機械・事業用設備への有形資産投資、そして開発事業(3,000億円)・グリーンエネルギー事業(600億円)・M&A等(950億円)といった事業ポートフォリオ拡大に向けた成長投資です。2022〜2024年度で4,516億円を実行済みで、2025年度は1,600億円を計画しています。

具体的な成長投資としては、米国の水関連インフラ建設分野への本格展開を担うMWH社の買収、国内最大規模のCLT生産工場を持つサイプレス・スナダヤとの資本提携、英国ロンドン・シティでの大型オフィス再開発などが進行しています。会社側は「国内建設事業を中核とし、それ以外の事業が国内建設と同等以上の業績を創出する」方向を持続的成長の軸に据えています。

受注環境については、国内建築は半導体・データセンターや都市部の大型再開発の需要が継続し、工事計画情報量は2027年度まで積み上がる見通しです。国内土木は防災・減災や国土強靱化、防衛関連施設整備などで堅調な推移が期待されます。一方、海外建築(北米)は金利政策の影響で民間設備投資が停滞しており、需要の落ち込みに注視が必要です。

5. 投資家が注目すべきポイント

強み

  • スーパーゼネコンとしての施工技術とブランド力、国内建設の旺盛な需要を取り込める事業基盤
  • 採算性重視の受注姿勢による完成工事総利益率の改善(国内建築9.1%、国内土木18.3%)
  • ROE12.6%・ROIC6.4%と改善した資本効率、長期安定配当と機動的な株主還元
  • 政策保有株式の着実な縮減によるバランスシートの健全化

懸念点

  • 2025年度は減収減益計画であり、2024年度の好業績の持続性が不透明
  • 北米建築事業における需要の落ち込みと、トランプ政権の相互関税政策など海外事業の不確実性
  • 賃上げ等による人件費・一般管理費の増加圧力
  • 政策保有株式売却益という一時的要因が利益・ROEを押し上げている面

今後確認すべき指標

  • 四半期ごとの受注高・完成工事総利益率の推移(採算改善が続くか)
  • 2025年度減益計画に対する実際の進捗(保守的計画なのか実勢なのか)
  • ROE・ROICの水準と株主資本コストとの関係(エクイティ・スプレッドの維持)
  • 政策保有株式の縮減ペースと、自己株式取得・配当を含む総還元の動向
  • 北米事業の受注・採算の回復状況

6. まとめ

2025年3月期の大林組は、国内建設の採算改善と政策保有株式の売却進捗により、大幅な増収増益を達成しました。ROEは12.6%と中期経営計画の目標を前倒しで上回り、資本効率を意識した経営への転換が数字として表れた一年といえます。

その一方で、2025年度は大型案件竣工の反動や北米需要の落ち込みなどから減収減益を計画しており、2024年度の好業績がどこまで巡航速度なのかは慎重に見極める必要があります。今後は、採算重視の受注姿勢が利益率の改善を継続できるか、成長投資が国内建設に次ぐ収益の柱を育てられるか、そして株主還元と資本効率の向上が持続するかが、継続的に確認すべきポイントとなります。

※本記事は公開情報をもとにした分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

Articles

株主優待

記事がありません。

個人投資家・企業様各位

目次