〜2025年度決算説明会資料(2025年4月1日〜2026年3月31日)〜
はじめに
今回の記事では、鹿島建設(証券コード1812)が公開している2025年度決算説明会資料をもとに、同社の事業内容、業績動向、成長戦略、そして投資家が注目すべきポイントを整理します。同社は5期連続の増収増益を達成し、売上高・営業利益・当期純利益がいずれも過去最高を更新しました。あわせて2026年5月に財務戦略を更新し、株主還元の拡充を打ち出しています。
※本記事は公開IR資料をもとに作成したものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
1. 会社概要
鹿島建設は「100年をつくる会社」を掲げる大手総合建設会社(ゼネコン)です。収益の柱は建設事業(土木・建築)ですが、資料からは以下の4つの区分で事業を捉えていることが読み取れます。
- 単体(鹿島建設本体):土木事業・建築事業が中核。2025年度の単体当期純利益1,469億円は過去最高。
- 国内関係会社:建設系関係会社に加え、国内不動産開発事業を展開。
- 海外関係会社:米国・欧州・アジアでの建設事業と不動産開発事業。海外関係会社の会計期間は1月〜12月。
- 開発事業(国内・海外):流通倉庫、賃貸住宅、オフィス、ホテルなどの不動産を開発・賃貸・売却。
ビジネスモデルの特徴は、建設で培った技術・ネットワークを不動産開発に展開し、両事業の連携(共同事業化)によって優良プロジェクトを生み出している点です。国内建設市場では旺盛な需要を背景に、収益性・施工体制を確保した受注活動を進めており、受注時採算の改善と大型工事の貢献が利益率向上につながっています。
2. 今回のIR資料で最も重要なポイント
IR資料全体を通じて、投資家にとって重要と考えられる論点は次の4点です。
ポイント1: 5期連続の増収増益と過去最高益
- 2025年度の連結業績は、売上高3兆672億円、営業利益2,407億円、当期純利益1,773億円といずれも過去最高を更新しました。
- 国内建設事業の順調な工事進捗と利益率向上が主因で、ROEは前年度比3.1ポイント上昇の13.3%となりました。
- 投資家は、この高水準の利益が一時的なものか、構造的な収益力向上によるものかを見極める必要があります。
ポイント2: 財務戦略の更新と株主還元の拡充
- 2025年度の年間配当金を従来予想の132円から146円へ引き上げ、2026年度も146円を維持する計画です。
- 2026年度は総額400億円の自己株式取得を計画し、あわせて保有する自己株式を発行済株式総数の5%程度となるよう消却する予定です。
- 配当性向40%を目安とした配当と、機動的な自己株式取得を組み合わせた株主還元姿勢が鮮明になっています。

ポイント3: 中期経営計画を上回る利益進捗
- 中期経営計画(2024〜2026)の3か年連結当期純利益は、策定時の3,500億円程度から1,200億円以上上振れし、4,700億円以上となる見込みです。
- 2026年度の連結当期純利益予想1,700億円は、中計目標「1,300億円以上」を大きく上回ります。
- 会社側は2027年以降も良好な事業環境が継続する見通しとし、次期中期経営計画で更なる利益成長を目指すとしています。
ポイント4: 資本コストと株価を意識した経営
- 同社は株主資本コストを8%程度と認識し、ROE10%超の水準を継続する見通しを示しています。
- 政策保有株式については「2026年度末までに連結純資産の20%未満」を目標に縮減を進め、3年間の売却額を計画比400億円増額の900億円程度に引き上げています。
- 2026年3月末時点でPBRは2倍を超えており、利益成長と株主還元が株式市場で一定の評価を受けたと認識しています。
3. 業績動向
2025年度(2025年4月1日〜2026年3月31日)の連結業績は以下のとおりです。
| 項目 | 2024年度実績 | 2025年度実績 | 前年同期比 |
|—|—|—|—|
| 売上高 | 2兆9,118億円 | 3兆672億円 | +1,554億円 |
| 営業利益 | 1,518億円 | 2,407億円 | +888億円 |
| 経常利益 | 1,606億円 | 2,404億円 | +797億円 |
| 当期純利益 | 1,258億円 | 1,773億円 | +515億円 |
| 建設受注高 | 2兆6,245億円 | 3兆2,639億円 | +6,393億円 |
| ROE | 10.2% | 13.3% | +3.1pt |
当期純利益は前年度比40.9%増と大幅な増益となりました。単体では土木事業の売上総利益率が15.4%から24.6%へ、建築事業が9.6%から11.8%へと大きく改善しており、収益性の向上が全体をけん引しています。建設受注高は国内外ともに大きく伸び、3兆円を超えて過去最高を更新しました。
一方で、事業区分ごとに濃淡もあります。国内関係会社は建設事業の業績向上と不動産開発物件の売却が寄与して増収増益となりましたが、海外関係会社は建設事業が伸びたものの、不動産開発物件の売却件数減少(金利動向や不動産売買市況を踏まえ、売却を2026年度以降に先送り)を主因に減益となりました。海外開発事業の当期純利益は2025年度に一時的にマイナス45億円となっており、これは構造的な悪化ではなく売却時期の調整によるものと説明されています。
2026年度の業績予想は、連結売上高2兆9,000億円、営業利益2,000億円、当期純利益1,700億円です。2025年度は業績を押し上げる要因が重なったため、その反動で単体・国内関係会社は減収減益を見込むものの、海外開発事業の業績回復により全体では中期経営計画を上回る水準を維持する見通しです。
4. 成長戦略・中期的な注目点
同社は2026年5月に財務戦略を更新し、計画を上回る利益や政策保有株式の売却を主要な資金源として、株主還元の拡充とサプライチェーンの強化を打ち出しました。キャッシュアロケーションの全体像は次のとおりです。

成長戦略の柱は、資料から以下のように整理できます。
- 国内建設事業の深化:受注前・施工中・竣工後の各プロセスでリスク管理を徹底するとともに、AI・IT技術の活用を拡大。橋梁健全度をAIが判定する「BMStar AI」や、生産性を約2倍に高める全自動墨出しロボット「ロボプリン」などを展開しています。
- 成長領域の拡大:国内外の不動産開発における大型案件の共同事業化、米国で確立した流通倉庫開発モデルの欧州・アジアへの展開、官民連携によるハイブリッドダム事業など、事業領域の拡大を推進しています。
- 技術による新たな価値創造:光ファイバセンシング技術や、建物を利用しながら価値向上を図る制震技術「D³SKY-L」「E³SKY」などの研究開発を進めています。
- サステナビリティ:環境配慮型コンクリート「CO₂-SUICOM」「ECMコンクリート」の国土交通省工事への適用拡大や、協力会社への支払早期化・建設技能者の処遇改善によるサプライチェーン強化に取り組んでいます。
会社側が重視するKPIとしては、ROE(10%超を継続)、配当性向(40%目安)、政策保有株式残高(連結純資産の20%未満)、D/Eレシオ(0.7倍目安)などが挙げられます。中期経営計画3か年の投資総額は1兆1,600億円(策定時比400億円減)で、企業価値向上に資する投資を厳選する方針です。
5. 投資家が注目すべきポイント
強み
- 国内建設事業の受注時採算改善と大型工事の貢献による、構造的な収益性の向上。
- 建設と不動産開発を組み合わせたビジネスモデルと、米国・欧州・アジアに広がるグローバルな開発ネットワーク。
- ROE13.3%・PBR2倍超という、資本収益性と市場評価の両面での改善。
- 配当性向40%目安の配当と機動的な自己株式取得を組み合わせた、明確な株主還元方針。
懸念点
- 2026年度は連結で減収減益(当期純利益△73億円)を見込んでおり、2025年度の高水準が一巡した後の利益トレンド。
- 海外不動産開発事業は金利動向や不動産売買市況の影響を受けやすく、売却時期の変動が業績を左右する点(2025年度の海外開発事業は当期純利益がマイナス)。
- 国際情勢の不安定さと、建設業全体で続く就業者数の減少(担い手確保)という構造的課題。
今後確認すべき指標
- 四半期ごとの建設受注高と、単体の土木・建築の売上総利益率の推移。
- 先送りした海外開発物件の売却進捗と、海外開発事業当期純利益の回復状況。
- 政策保有株式残高の縮減ペース(連結純資産比率20%未満の達成状況)。
- 自己株式取得・消却の実施状況と、次期中期経営計画で示される新たな利益目標。
6. まとめ
鹿島建設の2025年度決算は、国内建設事業の収益性向上を軸に5期連続の増収増益・過去最高益を達成し、中期経営計画を大きく上回る進捗を示しました。あわせて財務戦略を更新し、配当引き上げ・自己株式取得・政策保有株式の縮減といった株主還元と資本効率改善の姿勢を明確にしています。
今後は、2025年度の高水準が一巡する2026年度以降に、国内建設の収益力を維持しつつ海外開発事業を回復させられるか、そして次期中期経営計画でどこまで成長目標を引き上げるかが焦点となります。投資家としては、受注高・セグメント別利益率・海外開発の売却進捗・株主還元の実行状況を継続的に確認していくことが重要です。
※本記事は公開情報をもとにした分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。